-------寿命なんて、お前はあまり気にするものじゃない。 だから好きに生きなさい。 お前にとって、命は限りなくまぶしい光の粒のように溢れている。 急くことはない。 自分の思った道を全うすることも、新しい道を見つけることも、 お前がしたいと思うことがすべて出来るほど、お前の光の粒は溢れているのだから。------- 昔、自分がどれくらい生きれるのか、なかなか成長しない髪の毛や爪を見て、 不思議に思って師匠に尋ねると、師匠はやわらかな言葉でそう諭してくれた。 だから、自分がいま何歳なのか、どれくらいまで生きることができるのか、あといくつの命なのか、 そんなことは、とても些細なことで、 気に止めなくても、時は必然的に流れていくものなのだ。 きっと、緩やかにさらさらと、自分の命は長い時を超えて消えていくのだろうと、そう思っていた。 その日は静かな夜だった。 魔法使いは、この前ヒカリがおすそわけしてくれたコーヒー粉を煎れていた。 お湯を注ぐと、白い湯気がふわりとカップから立ち上がり、香ばしいコーヒーの薫りがカップから溢れ出した。 コーヒーのカップを持って、魔法使いは机に向かった。 ずいぶん前に読んでしまった本ばかり置いてある本棚の、 そのまた奥にしまいこんであった、分厚くて古びた本を一冊開いた。 長年開いていなかったせいで、その本は埃っぽくてくすんでいた。 今にも寿命を埃のせいで、崩れてしまいそうな頁を慎重にめくりながら、 魔法使いは文字の行列を辿り始めた。 この本は、一人の魔女が、自分の人生をエッセイにしたものだ。 遠い昔に手に入れて、一度読んだきりの本だった。 魔法使いは、整然と並ぶ文字たちを読み取っていった。 やがて、魔法使いが捜し求めていた項目の文字を、彼は読み取った。 『私の寿命』 ずっと昔に、気にしていた自分の命の長さ。 今は、途方もないほどの命の粒を数えることも、それが消えるのを待つことも面倒で、 粒を数えることを、好きなだけ星を数える時間にかえていた。 そんな自分が、今さらこんな本をとった。 ちくちくするこの心の意味を知りたくて。 彼女を見る度に、ぎゅーっと締めつけられるような気持ちになる。 苦しくなる。もどかしくなる。 手を伸ばして、触れて、声を届けて。 その手を取ってほしい、温かい笑顔、彼女だけの声を聞かせてほしい。 全部、全部全部。 こんな気持ち、今まで知らなかった。 人に対して、こんな気持ちを持つことは、なんとなく許されないことなのだろうと、 様々な魔法使いや魔女たちが書いた本を読んで、そう感じていた。 魔法使いは、一度瞼を閉じた。 それからゆっくり目を開けると、文字を辿り始めた。 それはとても短い文章だった。 |