元姫の瞳が、こちらを向く。


手を伸ばして、触れたくなる。手の中におさめたくなる。

それはまるで宝石のように、昭の姿を映しながら、ちらちらと光っているように見えた。


彼女の眼球を、手のひらの上で転がしてみたい。

まだ身体から離れて間もない眼球は、きっと温かいはずだ。


そして、彼女が見てきた今までの景色を、すべてその黒曜石のように黒い眼心の中におさめているはずだ。

手のひらの上で眼球はそっと、彼女が見てきた景色、これから見ようとした景色を教えてくれるだろう。



見てみたい。


もっと、知りたい。




昭はそっと、元姫に向かって手を伸ばした。


顔を近づける。元姫の瞳は、ぽろりと頬に転がり落ちてしまうほど、一度大きく見開いたけれど、

やがてすっと、瞼をかぶせて、瞳を閉じた。



ああ、もっと見たかったのに。

たまらない感情を抑えようと、元姫の瞼に、鼻に、唇に、ひとつひとつ口づけを落としていった。


くすぐったいのか、笑い声にも似た音が、彼女の唇の間から漏れている。



もっと、見てみたい。




「元姫。」



名を呼んでみる。

うん?と小さく声をあげて、元姫が瞼をまた持ち上げる。

見たかった彼女の瞳の奥が、また昭の前に現われる。


思わず口角が上がる。目が細くなる。


もう一度瞳を覗き込んで、食べてしまいたい衝動を抑えながら、瞳のすぐ上に口づけを落とした。

長くて多い彼女の睫毛に、自分の唇が当たる感触が伝わってくる。



たまらず元姫がもう一度、笑い声を口から吐き出した。






きゅぽん


眼球が外れる音が、昭の耳の奥では、確かに、聞こえたような気がした。









back