「ねえ、この二日間、なぜ連絡してくれなかったの?」 淡い夏の味がするキスをした後、すっかり私の部屋でくつろいでいる昭に向けて私は尋ねた。 うん?と昭がこちらを向く。 最近部屋につけたばかりの風鈴が、ちりちりと小さく鳴った。 私に対して、なにか怒っていることがあるとすれば、あの金曜の夜のことなのだろうけれど。 けれど、夏候と一緒に帰っていたことに対して不機嫌だっただけで、 そのあと昭は、何事もなかったかのような表情を見せていたことを思い出して、ふと疑問に抱いた。 いや、違う。そんな問いの答えなんて、何度もこの二日間考えた。 そしてやっぱり、どう考えても、あの金曜の夜の私の返答のせいなのだという結論にいたった。 今まで抱いていたお互いの関係への位置づけが、ズレていたために起こった食い違いだった。 だから私は、その理由を聞きたいというよりも、昭の私への気持ちをもう一度、確かめたいのかもしれない。 「わかんないか?」 私の気持ちを見透かしているかのように、昭はちょっと首をかしげて、そう私に尋ね返してきた。 夏の日を浴びて、もうすでに焦げてきている腕をこちらに伸ばす。 私も首を少しかしげて、小さく笑った。昭にはかなわない、そう思った。 「俺がこの二日間、なにを考えてたか知りたいってこと?」 「そう、かもしれない。」 ぽつりと、言葉をこぼした。 唇の端からぽとぽとと落ちた言葉の端たちは、空気に流れて沈殿していった。 その言の葉たちを拾いあげるかのように、昭は伸ばしてきた手を私の手に置いた。 触れる。昭の指先は、いつでも熱いくらい暖かい。 「元姫のことだよ。」 昭の手を見つめていた私は、その言葉に顔を上げた。 目が、かちりと合う。 「お前のことしか、考えてなかった。」 まっすぐ、射られる。力強くて、でも優しいまなざしだった。 私はいつも、真正面から見る昭のそのまなざしに弱かった。 いつもはちゃらんぽらんな昭が、時よりみせる、真剣な顔だから。 「でも、どんな顔して会えばいいか分からなかった。 ずっと付き合ってると思ってたのに、ただの幼馴染なんて言われるしさ。ほんとまいるよ。」 溜息に近い息を吐き出される。そのあと、昭は小さく笑った。 困った犬みたいな表情を見せたあとに、唇の端から見える白い歯が印象的だった。 握られた手の指を、親指でなぞられる。 いつの間に、こんなに包み込まれるほど大きな手になったのだろうか。 「好きって、言ってくれなかったから。」 昭の手の温かさに少し酔いながら、私は正直に自分の気持ちを吐き出した。 目を伏せて、昭の手を両手でそっと包んだ。 焦げはじめた昭の手と、私の手はオセロのようにくっきりと差をみせた。 「うん?」 「ただのじゃれあいで、キスしてくるのかと思ってた。キスした後、なにもなかったかのようにふるまうし。」 ちょっと、沈黙。昭がちょっと困った顔をして頭を掻いた。 「それは、・・・言わなくても分かってると思ってたんだよ。」 「全然、分からないわよ。」 「まあ、もう分かったんだからいいだろ。」 握っていた手をつかまれて、ぐいっと引き寄せられた。 ぎゅ、と肩を抱かれる。ちょうど昭の胸に、頬があたる。 いきなりのことにびっくりして、心臓がひゅっと跳ね上がる音が聞こえた。 「昭、暑い。」 「俺は暑くない。」 「私が暑いの。」 胸に手を置いてちょっと距離を作った。 腰に回された昭の片方の手が、頬を包む。 あ、と思った瞬間、もう一度キスをされた。 淡い夏の味が、まだ唇の上に残っていた。 唇が離れた後、目が合った。昭の目は、楽しそうにこちらを覗き込んできた。 「晴れてカップルになったことだし、な、元姫。していいか?」 「馬鹿」 「ちょ、冗談だって、そんな目で見るなよ。」 慌ててた声と同時に、昭は誤魔化すように笑った。 ほんとに・・どうしてすぐそういう話になるのかしら・・? 笑いながら、ぎゅっと少し強く腰をつかまれた。 「でも、もっかいキスしようぜ。」 昭の顔がすぐ目の前に降りてきた。 了承のしるしに、私はまぶたを閉じた。 もう一度、風鈴が後ろでちりちりと鳴っていた。 |