放課後になったらいつも、元姫と一緒に帰るのだけれど、今日は非常に面倒なことに、出たくもない委員会があった。


そもそも委員なんて、あの時くじ運が悪くなければ、やらずにすんだというのに。

元姫にばれなければ、適当な理由をつけてサボっていたところなんだけれど。

同じクラスでもないのに、どうして俺が逃げだそうとしていることがバレたのだろう?


元姫曰く、顔に書いてあるとか…。

こゆときに幼馴染みには嘘がつけないなって思う。あ、元姫だからか。

まぁとにかくも、委員会が終わるまでは待ってあげるからと言う元姫の言葉に渋々頷き、

俺は欠伸を噛み締めながら、委員会に顔を出した。


ついつい机の上に顔を置いてしまいそうになるのを我慢しながら、時計ばかりちらちらと確認していた。

そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、委員会は30分程で終わってくれたので、

本格的に居眠りに入る前に、俺は教室の外に出ることができた。


元姫は図書室にでもいるかな?と思い、携帯のメールを確認してみると、

彼女にしては意外なことに、屋上で待ってると書いてあった。

珍しいこともあるもんだなと思い、頭を掻きながら屋上への階段を上る。



天気がいい日に弁当を食べたり、放課後の告白のための場所に、

屋上に行こうと思っている奴が何人もいるみたいで、結構いつ行っても何組か人がいるのだ。

人の告白なんかに興味はないし、あまり遭遇もしたくないんで、俺はあまり屋上には行かない。

まあ、人がいない授業中にサボってお昼寝タイム…って時は話が別だけど。



屋上に行く鉄製の扉を開ける。

開けた途端、びゅっと風が前髪を跳ねらせる。

ぽかぽかとした陽気から、もう少しで陰りが見える…そんな時分だった。

周りを見渡したら、今日は告白するにはもう時間が遅いのか、屋上は閑散として人の影が見えなかった。


「元姫ー。」


とりあえず、元姫の名を呼んでみる。

携帯に新着メールはきてないし、元姫が嘘のメールを俺に送ってくることもない、はず。



「おい、どこだよ?」

思わず声が出る。

元姫の返事がないので、俺の声は寂しく屋上に響いて消えていくだけだった。

なんだよ、ほんとに俺騙されたのか?今日はエイプリルフール?…なんて一瞬考えたけど、

頭から振り払って屋上をぐるりと一周回ってみることにした。相変わらず、ぴゅう、ぴゅうと風が吹いている。



「あ。」


屋上の入口のちょうど真後ろ側で、壁を背もたれにしている元姫が、ちょこんと座っていた。

思わず漏れた俺の声に反応もせず、元姫はぴくりとも動かなかった。



「元姫?」


元姫の横に腰をかがめて、顔を覗き込む。

いつもよくぱちぱちと大きく開いているその瞳は瞼に閉じられて、元姫は気持ちよさそうに眠っていた。

ちょっと耳を寄せれば、静かな寝息が聞こえてきそうだった。

手には難しそうな本を持っていて、ぴゅうと風が吹くたびに、ページがぱらぱらと捲れていた。

伏せた睫毛が柔らかに伸びていて、思わず手を伸ばして触ってしまいそうになった。

元姫の寝顔なんて、そうそう見られるものじゃない。

いつも気づいたら、寝ている俺を覗き込んでいるのは元姫の方だ。


珍しいこともあるもんだなと思いながら、思わず俺はじっと元姫の寝顔を見つめていた。

いつ、ぱちりと瞼を持ち上げて、元姫が目を覚ますか分からないけれど、それまでずっと見ていたかった。


ちょっと幼くなる元姫の寝顔を見ていると、小さい頃を思い出す。

幼稚園の頃とかは手をつないだり、一緒におやつを食べたりしてた。

いつもは大人びているけれど、寝顔の元姫の緩んだ口元とか目のあたりが、

小さな頃の元姫の姿を思い描くくらい幼かった。


思わず、ふっと笑ってしまう。あーあ、あの頃の元姫は可愛かったのに。

いつからうるさくなっちまったんだろうなあ?なんて。

ちょっと昔のことを思い出してると、元姫の頭がずるずると、俺の肩にのっかかってきた。

どうやら元姫が目を覚ますまで、もう少し時間がかかるみたいだ。




「そんな顔、俺以外には見せんなよ?」

 
だんだんと熱を持ち始めた左肩に頬を寄せる元姫に向かって、俺はこっそりとささやいた。

そんなささやき一つでは起きない元姫の頭を、ぽんぽんとたたく。

もう少しだけ、肩を貸しておこうかな。


元姫が目を覚ましたらすぐに、抱き締めてキスしてやる。

そうすれば、それだけ自分が無防備だったってことに気づくだろ?

長い髪の毛の先をいじりながら、俺はそんなことを考えて、そしてもう一度、ちょっとだけ笑ってやった。






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